「母は最近ちゃんと食べていますか」「来週の面会は何時まで大丈夫ですか」。介護施設には、ご家族からこうした電話が毎日のように入ります。応じるのは、ケアの合間の職員です。伝える側も、誰にどこまで話してよいのか、前回どの職員が何を伝えたのかが分からないまま答えていることがあります。

要点を先に書くと、介護施設のご家族への情報共有をデジタル化するときは、次の3つを先に決めます。

  • 伝える内容を4種類に分け、種類ごとに手段を決める。日々の様子、体調の変化や受診、面会や行事、契約や請求などの手続きで、急ぎの度合いも向く手段も違う
  • 「誰に、どこまで、どの方法で」伝えるかを入居時に確認しておく。個人情報保護委員会のQ&Aも、説明する相手の範囲や方法・時期を本人にあらかじめ確認するなど、本人の意思に配慮するよう求めている
  • 新しい記録を増やさず、いまある介護記録から抜き出して送る。送る担当と時刻を決め、ご家族からの返信を受ける窓口を1つにする

以下、伝える内容の分け方、手段ごとの向き不向き、写真や体調の情報を共有するときの注意、職員の負担を増やさない運用、導入の順番、起こりやすい失敗を順に整理します。

ご家族に伝える内容は、どう分ける?

「日々の様子」「体調の変化・受診」「面会・行事」「手続き・請求」の4種類に分けます。急ぎの度合いが違うので、同じ手段・同じ頻度で送ろうとすると、急ぐ連絡が埋もれたり、急がない連絡に電話を使ったりすることになります。

種類内容の例急ぎの度合い向いている手段
日々の様子食事の様子、レクリエーションへの参加、表情低い週1回などの定期のお便り、家族向けのページ
体調の変化・受診発熱、転倒、受診の予定と結果、服薬の変更高い電話。電話の後に内容を文字でも残す
面会・行事面会の予約、行事の案内と日程中くらいWebの予約受付、一斉のお知らせ
手続き・請求契約の更新、利用料の請求、書類の提出依頼期限による文書の送付、期限の前の案内

体調の変化は、デジタル化しても電話で伝えるのが基本です。文字だけで送ると、ご家族がすぐに気づかない場合があるためです。そのうえで、電話で伝えた内容を記録として残し、ご家族がもう一度見返せるようにします。

介護施設がご家族へ伝える内容を4種類に分けた図。日々の様子は定期のお便りや家族向けのページ、体調の変化・受診は電話と文字の記録、面会・行事はWebの予約受付と一斉のお知らせ、手続き・請求は期限の前の案内で伝え、入居時に伝える相手と方法を確認しておくことを示す。介護施設がご家族へ伝える内容を4種類に分けた図。日々の様子は定期のお便りや家族向けのページ、体調の変化・受診は電話と文字の記録、面会・行事はWebの予約受付と一斉のお知らせ、手続き・請求は期限の前の案内で伝え、入居時に伝える相手と方法を確認しておくことを示す。

面会の予約を電話からWeb受付に切り替える方法は、介護施設の面会予約をWeb受付にする方法で詳しく扱っています。デイサービスで利用日の変更や送迎の連絡を受け付ける場合は、デイサービスの送迎連絡・利用日変更の受付をデジタル化する方法が参考になります。

手段ごとの向き不向きは?

電話は急ぎの連絡に、紙の連絡帳は面会の多いご家族に、メール・LINE・家族向けのページは離れて暮らすご家族や複数のご家族への共有に向いています。1つの手段に寄せるより、内容の種類ごとに使い分けます。

手段向いている場面気をつけること
電話体調の変化、受診、急ぎの確認伝えた内容が記録に残りにくい。誰が何を伝えたかを記録する
紙の連絡帳面会の頻度が高いご家族面会が少ないご家族には届かない。複数のご家族で共有できない
メール・LINE定期のお便り、面会や行事の案内送り先を間違えると別のご家族に情報が届く。送り先の登録を確認する
家族向けのページ(ログインして見る)日々の様子や写真をまとめて見てもらうご家族ごとに見られる範囲を設定する。ログインの案内が要る

離れて暮らすご家族が複数いる場合、「長男には電話、長女にはLINE」のように連絡がばらばらになると、ご家族の間で受け取った情報が食い違います。誰を主な連絡先(キーパーソン)にし、ほかのご家族にはどの範囲で共有するかを、入居時に決めておきます。

写真や体調の情報を共有するときの注意は?

伝える相手の範囲と方法を入居時に本人に確認し、記録に残しておきます。写真には他の入居者が写り込まないようにし、病状の詳しい内容は文字で一斉に送らず、主な連絡先に個別に伝えます。

個人情報保護委員会の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」に関するQ&Aでは、利用者の病状などを家族等に説明するときの留意点として、説明を行う対象者の範囲、説明の方法や時期などを本人にあらかじめ確認しておくなど、できる限り本人の意思に配慮する必要があるとしています(個人情報保護委員会「患者・利用者の病状等をその家族等に説明する際に留意すべきことは何ですか。」)。

施設の運用に置き換えると、次の3点を決めておくと扱いがそろいます。

  • 入居時の確認票に「伝える相手」と「伝える方法」の欄を設ける: 主な連絡先、ほかに共有してよいご家族、写真を送ってよいか、メール・LINE・家族向けのページのどれを使うか
  • 写真は入居者ごとに確認してから送る: 行事の集合写真など、他の入居者が写っている写真は、写っている方の同意の範囲で扱う。迷う場合は、その方だけが写った写真を選ぶ
  • 体調の詳しい内容は個別に伝える: 一斉送信のお便りには載せず、主な連絡先へ電話で伝え、その記録を残す

確認した内容は、本人やご家族の希望で変わることがあります。契約の更新やケアプランの見直しの機会に、伝える相手と方法も見直します。ガイダンス本体は個人情報保護委員会の医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンスのページにまとまっています。

職員の負担を増やさない運用は?

ご家族向けの文章を一から書かず、いまある介護記録から抜き出して送ります。送る担当と時刻を決め、ご家族からの返信は1つの窓口で受けます。

定期のお便りのために職員が別の文章を毎回書くと、記録の作業が二重になります。介護記録に書いている食事・入浴・レクリエーションの記録のうち、ご家族に伝えてよい項目を決めておき、その項目を週に1回まとめて送る形にすると、書く量は増えません。

運用で決めておくことは次の4つです。

  • 送る項目: 介護記録のうち、ご家族向けのお便りに載せる項目(例:食事の様子、参加した行事、一言の様子)
  • 送る担当と時刻: 「毎週金曜の午後に、各フロアのリーダーが確認して送る」のように決める
  • 返信の窓口: ご家族からの返信や質問を受ける担当を1つにし、職員が個別にやりとりしない
  • 電話で伝えた内容の記録: 体調の連絡など、電話で伝えた日時・相手・内容を残し、次に電話を受けた職員が確認できるようにする

以下は特別養護老人ホームを題材にした記入例で、実在の施設の文面ではありません。自施設の記録項目と言葉づかいに置き換えて使ってください。

文例: 「〇〇様のご家族様、今週の〇〇様のご様子です。昼食はほぼ毎日完食され、水曜日の書道クラブに参加されました。来週は秋のお茶会があります。面会のご予約はこちらのページから承ります。」

どこから始めればよい?

伝える内容と手段の表を作る、入居時の確認票を見直す、送る項目と担当を決める、一部のフロアで試してから広げる、の4段階です。

  • 伝える内容と手段の表を作る: 上の4種類について、いまどの手段で伝えているか、今後どうするかを1枚にまとめる
  • 入居時の確認票を見直す: 伝える相手・方法・写真の可否の欄を加える。すでに入居している方は、次の面会や契約更新の機会に確認する
  • 送る項目と担当を決める: 介護記録のどの項目を載せるか、誰がいつ送るか、返信を誰が受けるかを決める
  • 一部のフロアで試してから広げる: 1つのフロアで1〜2か月続け、ご家族からの問い合わせの内容や、職員の作業時間がどう変わったかを記録してから、全体に広げる

4段階目で記録する項目は、施設の状況で選びます。たとえば「ご家族からの電話の件数と内容」「お便りの作成と送信にかかった時間」「送り先の誤りなどの訂正の件数」を、切り替える前と同じ期間で比べます。

起こりやすい失敗は?

「すべてを文字の連絡に切り替える」「送り先の確認をしない」「ご家族への返信を職員が個別に受ける」の3つです。

失敗例1: 体調の変化までメールやLINEで済ませる。 ご家族がメッセージに気づくのが遅れ、受診の判断や付き添いの相談が後手に回ります。体調の変化は電話を基本にし、文字の連絡は記録として使います。

失敗例2: ご家族の連絡先を登録したまま見直さない。 主な連絡先が変わったのに古い連絡先へ送り続け、伝えるべきご家族に情報が届きません。契約更新やケアプランの見直しの機会に、連絡先と共有範囲を確認します。

失敗例3: ご家族からの返信を、受け取った職員がそれぞれ個人で返す。 返事の内容が職員ごとに違い、別の職員が経緯を把握できません。返信の窓口を1つにし、やりとりを記録に残します。

あわせて読みたい

よくある質問

Q. 介護施設のご家族への連絡は、すべてメールやLINEに切り替えてよいですか?

A. 体調の変化や受診など急ぎの連絡は、電話を基本にするのが安全です。ご家族がメッセージにすぐ気づかない場合があるためです。日々の様子や行事の案内は、メールやLINE、家族向けのページで定期的に送る形に向いています。

Q. ご家族のうち、誰にどこまで伝えればよいですか?

A. 入居時に、主な連絡先と、ほかに共有してよいご家族、伝える方法を本人に確認して記録しておきます。個人情報保護委員会のQ&Aも、説明する相手の範囲や方法・時期を本人にあらかじめ確認するなど、本人の意思に配慮するよう求めています。

Q. ご家族に入居者の写真を送るときの注意は?

A. 写真を送ってよいかを入居時に確認し、他の入居者が写り込んだ写真は写っている方の同意の範囲で扱います。迷う場合は、その方だけが写った写真を選びます。

Q. 職員の負担を増やさずにお便りを続けるには?

A. ご家族向けの文章を一から書かず、介護記録のうちご家族に伝えてよい項目を決めて、週に1回まとめて送ります。送る担当と時刻、返信を受ける窓口を決めておくと、職員ごとのやりとりが増えません。

まとめ

  • ご家族に伝える内容を、日々の様子・体調の変化と受診・面会と行事・手続きと請求の4種類に分ける
  • 体調の変化は電話を基本にし、伝えた内容を記録に残す
  • 伝える相手・方法・写真の可否を入居時に本人に確認し、更新の機会に見直す
  • お便りは介護記録から抜き出して送り、送る担当・時刻・返信の窓口を決める
  • 一部のフロアで試し、問い合わせの内容と作業時間を比べてから広げる

最初の一歩として、先週ご家族からかかってきた電話を書き出し、4種類のどれに当たるかを分けてみてください。「日々の様子」や「面会・行事」が多ければ、定期のお便りや面会のWeb受付に置き換えられる電話です。見学・面会の予約やご家族への連絡をまとめて扱う仕組みは、介護・福祉施設向けの予約・顧客管理システムで紹介しています。