10月に入ると、クリニックの受付には「インフルエンザの予防接種、もう予約できますか」「いくらですか」「子どもは何回ですか」という電話が続きます。外来の患者さんの対応をしながら電話を取り、予約ノートに書き込み、ワクチンの入荷数と見比べる。1本の電話は短くても、同じ説明を一日に何十回も繰り返すことになります。
先に、要点をまとめます。
- 接種の枠は一般外来と分けて作り、入荷が決まった本数の分だけ公開する。週ごとに公開すると、入荷の遅れで予約を取り消す事態を避けやすい
- 予約の時点で「定期接種か任意接種か」「年齢」「2回目が必要か」を選んでもらう。料金と予診票、2回目の案内がこの3つで決まる
- 電話を減らすには、対象・料金・予約方法・持ち物・受付状況を1ページにまとめ、予約完了の控えに同じ内容を載せる。電話でしか分からない情報を残さない
以下、電話が増える理由、接種枠の作り方、予約時に聞くこと、2回接種の子どもの予約、案内ページと控え、当日の動線、導入の順番、起こりやすい失敗を順に整理します。医学的な判断(接種の可否や間隔)は医師が行う前提で、ここでは受付と予約の運用だけを扱います。
予防接種の予約で電話が増えるのはなぜ?
患者さんが知りたいことのうち、Webで確かめられない項目があるからです。料金・対象・予約方法・空き状況のどれか1つでも電話でしか分からないと、他の項目もまとめて電話で聞かれます。
受付にかかってくる電話の用件は、おおむね次のように分けられます。
| 用件 | 患者さんが知りたいこと | Webで答えられるか |
|---|---|---|
| 料金 | 自分はいくらか(定期接種の自己負担か、任意接種の院内価格か) | 区分ごとの料金表を載せれば答えられる |
| 対象 | 何歳から受けられるか、子どもは何回か | 年齢区分と回数の表で答えられる |
| 予約方法 | 電話かWebか、予約なしでも受けられるか | 案内ページで答えられる |
| 空き状況 | いつ受けられるか | 予約画面の空き枠表示で答えられる |
| 変更・取り消し | 日時を変えたい、体調が悪い | 予約完了の控えに変更方法を載せれば一部は答えられる |
| 2回目 | 子どもの2回目はいつ予約するか | 1回目の予約時に案内すれば答えられる |
表の右列が「答えられる」になっていても、案内ページが診療案内の奥にあって見つからなければ、結局は電話になります。トップページや予約画面から1回の操作で届く場所に置くことが前提です。
接種の枠はどう作る?
一般外来の予約枠とは別に、予防接種専用の枠を作ります。枠の数は入荷が決まったワクチンの本数から逆算し、入荷の見通しが立った週の分から順に公開します。
一般外来と同じ枠で予約を受けると、接種の予約が外来の診察枠を埋めたり、逆に外来の混雑で接種の方を長く待たせたりします。接種だけの時間帯を設けるか、外来の時間内に接種専用の枠を並べるかは院の規模で決めますが、どちらの場合も予約画面では外来とは別のメニューとして見せます。
枠を作るときに確認することは次のとおりです。
- 入荷の予定数と時期: 卸から届く本数と週を確認する。見通しが立たない週の枠は公開しない
- 区分ごとの配分: 定期接種の対象の方、任意接種の大人、子どもで枠を分けるか、共通の枠にして予約時に区分を選んでもらうかを決める
- 1本あたりの人数: 厚生労働省の資料では、1本(1mL)を0.5mLずつ2回分として計算しています(厚生労働省「季節性インフルエンザワクチンについて」)。大人の予約が奇数で終わる時間帯が続くと、開けた1本の残りの扱いを毎回考えることになります。大人の枠を2人単位で同じ時間帯に並べておくと、その回数が減ります。開封後の取り扱いは使用するワクチンの添付文書に従います
- 公開の単位: 1週間ずつ、または入荷のたびに公開する。シーズンの全期間を最初から公開すると、入荷が遅れた週の予約を取り消す連絡が発生する
公開した枠が埋まったら、予約画面に「今週の受付は終了しました。次の受付開始は◯日です」と表示します。空き枠が0のまま理由が書かれていないと、受付状況を尋ねる電話になります。
予約のときに何を聞く?
区分(定期接種か任意接種か)、接種を受ける方の年齢、2回接種が必要かどうか、住民票のある市区町村の4つです。この4つで料金・予診票・2回目の案内が決まります。
| 予約時に聞く項目 | 理由 | 予約画面での聞き方 |
|---|---|---|
| 定期接種の対象か | 自己負担額と使う予診票が変わる | 「65歳以上の方」など対象を書いた選択肢にする |
| 接種を受ける方の生年月日 | 年齢で回数と接種量が変わる | 家族をまとめて予約できる場合は1人ずつ入力する |
| 2回接種が必要か | 13歳未満は2回接種が基本 | 生年月日から自動で表示し、2回目の案内につなげる |
| 住民票のある市区町村 | 定期接種の自己負担額や期間は市区町村が決める | 自院の地域以外の方には、対応できるかを案内に書く |
| 予診票の受け取り方 | 事前に記入してもらうと当日の受付が短くなる | ダウンロード、または来院時記入から選ぶ |
区分と回数の根拠は次のとおりです。予防接種法に基づく定期接種の対象は、65歳以上の方と、60歳以上65歳未満で心臓・腎臓・呼吸器などの機能に一定の障害がある方です(厚生労働省「令和6年度インフルエンザQ&A」)。同じQ&Aでは、13歳未満は2回接種が基本、13歳以上は1回接種で2回接種と同等の抗体価の上昇が得られるとされ、2歳以上19歳未満を対象とする経鼻弱毒生ワクチンは1回の接種と説明されています。接種シーズンごとに内容が更新されるため、予約画面の文言を作るときは最新年度の資料で確認してください。
定期接種の期間と自己負担額は市区町村が決めます。たとえば静岡市は、令和8年度の高齢者インフルエンザ定期接種の期間を2026年10月1日から2027年1月31日まで、自己負担額を1,650円(生活保護受給世帯などは無料)と案内しています(静岡市「高齢者インフルエンザ定期接種」、2026年10月9日確認)。自院の患者さんが住む市区町村の案内を確認し、料金表に「◯◯市にお住まいの方」と条件を添えて載せます。
2回接種の子どもの予約はどうする?
1回目の予約完了時に、2回目の予約が必要なことと予約の取り方を案内します。2回目の時期は医師が判断するため、受付では「1回目の接種後に2回目の日程を決める」「1回目の予約時に候補日を仮で押さえる」のどちらにするかを院で決めておきます。
厚生労働省のQ&Aでは、12月中旬までにワクチン接種を終えることが望ましいとされています。2回目の枠がシーズン後半に足りなくなると、1回目を受けた子どもの保護者から問い合わせが集中します。子どもの1回目の予約数を見ながら、2回目用の枠を後ろの週に確保しておくと、この偏りを抑えられます。
兄弟姉妹を同じ日に受けさせたい保護者に向けて、1回の操作で複数人を予約できる画面にするか、同じ時間帯の連続した枠を選べるようにしておくと、電話での調整が減ります。
案内ページと予約の控えには何を書く?
対象と回数、料金、予約方法、予診票、持ち物、当日の体調不良時の連絡方法、受付状況の7項目です。予約完了の控えにも、日時と一緒に同じ内容を載せます。
案内ページは「よくある質問」を並べるより、患者さんが上から順に読めば予約まで進める並びにします。
- 対象と回数: 年齢ごとの回数、定期接種の対象
- 料金: 定期接種(市区町村ごとの自己負担)と任意接種(院内価格)を分けて書く
- 予約方法: Web予約の入口、電話予約を受ける時間帯、予約なしの接種を受けるかどうか
- 予診票: ダウンロードの場所と、記入して持参してほしいこと
- 持ち物: 本人確認と年齢の確認ができるもの(マイナンバーカードなど)、定期接種の対象であることが分かる書類、子どもの場合は母子健康手帳など。必要なものは市区町村や院の運用で変わるため、自院の受付で求めるものを書く
- 体調不良時の連絡: 当日発熱した場合の連絡方法と、予約の変更方法
- 受付状況: 今週の空き状況、次の受付開始日
予約完了の控えには、日時、受ける方の名前、区分と料金、予診票のリンク、持ち物、変更・取り消しの方法を入れます。前日にも同じ内容を短く送ると、予診票の持参忘れが減り、当日の受付で記入してもらう時間が短くなります。前日の案内の送り方や、事前に受付を済ませる仕組みは、クリニックのAI問診票導入で受付の電話対応負荷を減らす方法でも扱っています。
接種の日の待ち時間はどう抑える?
接種の予約時間と一般外来の診察を、受付と待合で分けて流すことです。予診票の事前記入と、到着した順ではなく予約時間順の呼び出しを組み合わせます。
接種の方が外来の患者さんと同じ列に並ぶと、外来の診察が長引いたときに接種の方まで待たされます。受付で「接種の方はこちら」と分け、予診票の確認、医師の予診、接種、接種後の待機という流れを外来とは別に回します。待合の広さに限りがある院では、接種後の待機場所が混まないよう、1つの時間帯に入れる人数を待機場所の席数から決めます。
待ち時間が長くなる原因を、受付・診察・会計のどこで詰まっているかに分けて考える方法は、クリニックの待ち時間対策|原因の切り分けとWeb予約・順番管理の組み合わせ方にまとめています。複数の診療科で予約枠を分けている院は、クリニックの複数診療科 予約枠管理と待合室混雑対策もあわせて確認してください。
導入はどの順番で進める?
今シーズンは案内ページと予約完了の控えから整え、接種専用の予約枠と2回目の自動案内は、受付の実績をもとに翌シーズンまでに作るのが現実的です。
すでに10月に入っていれば、予約の仕組みを作り直す時間は限られます。次の順で、手間のかからないものから進めます。
- 案内ページを1ページにまとめる: 上の7項目を書き、トップページと予約画面から届くようにする
- 電話で答えている内容を案内ページに寄せる: 1週間、電話で聞かれた用件を「料金」「対象」「空き」などの区分で数える。多かった用件から案内ページの文言を直す
- 予約完了の控えと前日の案内を整える: 予診票と持ち物を必ず入れる
- 翌シーズンに向けて接種専用の枠を作る: 今シーズンの予約数、時間帯ごとの混み具合、2回目の予約が集中した週を記録しておき、枠の配分の根拠にする
接種を受けた方の記録は、翌シーズンの案内にも使えます。前年に接種した方へ、受付開始日を知らせる連絡を送る仕組みは、クリニックのCRM活用で再診率を上げる方法で扱っている来院周期の考え方と同じです。メールで案内を送る場合は、受け取りに同意した方に限ります。
起こりやすい失敗は?
「シーズン全体の枠を最初に公開する」「定期接種と任意接種を同じ料金欄に書く」「2回目の枠を用意していない」の3つです。
失敗例1: シーズンの全期間の枠を最初に公開する。 入荷が遅れた週の予約を取り消す電話をかけることになり、受付の負担がかえって増えます。入荷が確定した週から公開し、次の公開日を予約画面に書きます。
失敗例2: 定期接種と任意接種の料金を1つの欄に書く。 「65歳以上は◯円」とだけ書くと、住民票が別の市区町村にある方や、対象年齢に届かない方から料金の確認の電話が来ます。区分と条件を分けて書きます。
失敗例3: 子どもの2回目の枠を用意していない。 1回目の予約が埋まった後に2回目の枠を探すと、12月の枠がすでに大人の予約で埋まっていることがあります。子どもの1回目の予約数に合わせて、後ろの週に2回目用の枠を残します。
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よくある質問
Q. インフルエンザ予防接種の予約枠は一般外来と分けたほうがよいですか?
A. 分けておくと、接種の予約が外来の診察枠を埋めることや、外来の混雑で接種の方を待たせることを避けられます。予約画面でも外来とは別のメニューとして見せ、枠の数は入荷が決まった本数から逆算します。
Q. 予約の時点で何を聞けばよいですか?
A. 定期接種の対象かどうか、接種を受ける方の生年月日、住民票のある市区町村、予診票の受け取り方です。これで料金、使う予診票、2回目の案内の要否が決まります。
Q. 子どもの2回目の予約はいつ受け付ければよいですか?
A. 2回目の時期は医師が判断します。受付では、1回目の接種後に日程を決めるか、1回目の予約時に候補日を仮で押さえるかを院で決め、1回目の予約完了時に2回目が必要なことを案内します。
Q. 電話での問い合わせを減らすには何から始めればよいですか?
A. 対象と回数、料金、予約方法、予診票、持ち物、体調不良時の連絡、受付状況を1ページにまとめた案内を作り、予約完了の控えにも同じ内容を載せることから始めます。1週間ほど電話の用件を数えると、案内ページで先に直す箇所が分かります。
まとめ
- 接種の枠は一般外来と分け、入荷が確定した週から公開する
- 予約時に区分・生年月日・市区町村・予診票の受け取り方を聞き、料金と2回目の案内につなげる
- 子どもの1回目の予約数に合わせて、後ろの週に2回目用の枠を残す
- 案内ページと予約完了の控えに同じ7項目を載せ、電話でしか分からない情報を残さない
- 今シーズンは案内と控えを整え、受付の記録を翌シーズンの枠づくりに使う
手始めに、今週受けた予防接種の電話を「料金」「対象」「空き」「変更」「2回目」に分けて数えてみてください。最も多かった用件が、案内ページで最初に書き足す項目です。予約・問い合わせ・受診の記録を1つの仕組みで扱う方法は、クリニック向けの予約・顧客管理システムで紹介しています。
