チェックインが重なる夕方、フロントでお客様に宿泊者名簿を手書きしてもらい、読みにくい字を後から台帳に打ち直す。小規模な旅館やゲストハウスでは、この作業がそのままお客様の待ち時間になっています。予約のときに名前もメールアドレスも受け取っているのに、同じことを当日もう一度書いてもらっている施設も珍しくありません。
この記事の答えを先に示します。
- 旅館業の宿泊者名簿に書くのは 氏名・住所・連絡先。日本国内に住所がない外国人の場合は 国籍と旅券番号 も加わる。自治体が独自に項目を足していることがある
- 名簿は正確な記載を確保する措置を講じたうえで作成し、作成日から3年間保存 する。予約後に事前登録で入力してもらっても、チェックインで本人や旅券と照らし合わせる手順 は残す
- 住宅宿泊事業法の民泊は記載事項が異なる(氏名・住所・職業・宿泊日など)。施設がどちらの制度で営業しているかを先に確かめる
以下、記載事項と改正点、事前登録の流れ、同行者と外国人宿泊者の扱い、民泊との違い、名簿データの管理、OTA経由の予約での進め方、起こりやすい失敗を順に見ていきます。
宿泊者名簿には何を書く?
旅館業では、宿泊者の氏名・住所・連絡先が法律で定められた記載事項です。2023年12月13日施行の改正で「職業」が削除され、「連絡先」が加わりました。
旅館業法第6条は、営業者に宿泊者名簿を備えて宿泊者の氏名・住所・連絡先などを記載し、都道府県知事の求めがあれば提出することを義務づけています。宿泊者の側も、営業者から求められたらこれらの事項を告げなければなりません(旅館業法(e-Gov法令検索))。細かな項目と保存期間は旅館業法施行規則第4条の2が定めています(旅館業法施行規則(e-Gov法令検索))。
| 項目 | 対象 | 根拠 |
|---|---|---|
| 氏名 | 宿泊者 | 旅館業法第6条 |
| 住所 | 宿泊者 | 旅館業法第6条 |
| 連絡先 | 宿泊者 | 旅館業法第6条(2023年12月13日から) |
| 国籍・旅券番号 | 日本国内に住所を有しない外国人 | 施行規則第4条の2第3項第1号 |
| 都道府県知事が必要と認める事項 | 自治体の定めによる | 施行規則第4条の2第3項第2号 |
連絡先が加わった理由は、感染防止対策の観点から、宿泊者が特定感染症の患者等やその関係者であった場合に必要に応じて連絡が取れるようにするためと説明されています(厚生労働省「令和5年12月13日から旅館業法が変わります!」)。
施設ごとに差が出るのは、表の最後の行です。新潟市のように年齢や宿泊年月日も記載事項として案内している自治体があるため(新潟市「旅館業法等の改正について(令和5年12月13日施行)」)、名簿の様式や入力フォームを作る前に、施設の所在地を管轄する保健所の案内を確認してください。名簿を備える場所は、施設か営業者の事務所とされています。
予約のあとに事前登録してもらう流れは?
予約確定の連絡に事前登録ページを添え、前日に未登録の方へだけ再案内し、当日はフロントで登録内容と本人を照らし合わせます。
施行規則は、名簿を「正確な記載を確保するための措置を講じた上で」作成するよう求めています。事前登録はお客様に入力を先に済ませてもらう手段で、当日の確認を省くためのものではありません。次の順に組み立てると、フロントの作業は「書いてもらう」から「確かめる」に変わります。
- 予約確定: 確認のメールやメッセージに、事前登録ページのリンクを載せる
- 事前登録: 名簿の記載事項と、到着予定時刻など運営に使う情報を入力してもらう
- 前日の再案内: 未登録の方にだけ、登録の案内をもう一度送る。登録済みの方には送らない
- チェックイン: 登録内容を画面か印刷で示して誤りがないか本人に確かめてもらい、外国人宿泊者には旅券を呈示してもらって照らし合わせる
- 保存: 確定した名簿を、作成日から3年間取り出せる形で保存する
事前登録しなかった方には、従来どおりフロントで記入してもらいます。記入用紙をなくしてしまうと、登録できなかった方への対応で列が止まります。
入力フォームでは、名簿の項目と運営に使う項目を分けて見せると、お客様が何のために入力するのかが伝わります。たとえば「宿泊者名簿(旅館業法で記載が定められています)」と「ご到着・ご要望」を別の枠にします。宿泊者にも名簿の事項を告げる義務があることをフォームの冒頭に一文添えておくと、入力をためらう方への説明にもなります。
同行者の分も事前に集められる?
集められます。法律上の記載対象は「宿泊者」なので、同行者をどう記載するかは管轄の保健所の案内に合わせ、事前に入らなかった分は当日フロントで補います。
予約サイトから届く情報は、多くの場合予約者1人分です。同行者の分を事前に集めるなら、フォームに「同行者を追加」の欄を設け、代表者がまとめて入力できるようにします。代表者が同行者の住所や連絡先を把握していないこともあるため、未入力の欄はチェックインで本人から聞き取る運用にしておきます。予約者1人分の情報だけで名簿を完成扱いにしないことが、この欄を設ける目的です。
外国人宿泊者の旅券はどう確認する?
日本国内に住所がない外国人の宿泊者は、国籍と旅券番号の記載が必要です。自治体の案内では、旅券の呈示を求めて写しを保存すること、その写しを名簿の氏名・国籍・旅券番号の記載に替えられることが示されています。
大阪市は、宿泊者名簿の記載事項の案内で、正確を期するために旅券の呈示を求めて写しを保存すること、写しは名簿の氏名・国籍・旅券番号の記載に替えられることを示しています(大阪市「宿泊者名簿への記載事項について」)。運用の細部は自治体ごとに確認してください。
事前登録で旅券番号を入力してもらっても、チェックインでの旅券の呈示と照合は省けません。入力された番号と旅券を見比べ、写しを保存する運用ならそのときに複写します。事前登録の段階で旅券の画像をアップロードしてもらう方法もありますが、本人確認書類の画像は漏えいしたときの影響が大きい情報です。保存先と閲覧できるスタッフを決めてから始めます。多言語での予約や案内の整え方は、宿泊施設のインバウンド集客|多言語対応で海外OTA依存を減らし直接予約を増やす方法で扱っています。
民泊(住宅宿泊事業法)の場合は何が違う?
住宅宿泊事業法の届出で営業している民泊は、記載事項が「氏名・住所・職業・宿泊日」と、国内に住所のない外国人の国籍・旅券番号です。旅館業の名簿とは項目が異なります。
住宅宿泊事業法施行規則第7条は、民泊の宿泊者名簿の記載事項をこのように定め、旅館業と同じく作成日から3年間の保存を求めています。あわせて、記載事項を電子データで記録し、必要に応じて紙に表示できる場合は、その記録で名簿への記載に代えられるとしています(住宅宿泊事業法施行規則(e-Gov法令検索))。
旅館業の許可で営業する簡易宿所と、民泊の届出で営業する施設とでは、同じ入力フォームを使い回せません。両方を運営している事業者は、施設ごとにフォームの項目を分けます。民泊の顧客管理の進め方は、民泊の顧客管理でリピーターを増やす方法|直接予約でOTA手数料を抑えるも参考になります。
名簿のデータはどう管理する?
3年間保存し、都道府県知事の求めがあれば提出できる状態にしておきます。名簿のために受け取った連絡先を、宣伝の送付に流用しないことも決めておきます。
事前登録でメールアドレスや電話番号を受け取ると、そのまま再訪の案内にも使いたくなります。しかし個人情報保護法は、個人情報の利用目的をできる限り特定すること(第17条)、あらかじめ本人の同意を得ずにその目的の達成に必要な範囲を超えて取り扱わないこと(第18条)を定めています(個人情報の保護に関する法律(e-Gov法令検索))。メールで宣伝を含む案内を送るなら、特定電子メール法により原則として事前の同意も必要です(迷惑メール相談センター「特定電子メール法」)。
事前登録フォームには「今後のお知らせを受け取る」のチェック欄を名簿の項目とは別に設け、チェックした方だけを案内の対象にします。宿泊履歴を使った再訪の案内の組み立ては、宿泊施設のリピーターを増やすCRM活用法|宿泊履歴と誕生日メールの自動化で整理しています。
OTA経由の予約でも事前登録は使える?
使えます。ただし案内は、OTAのメッセージ機能など各OTAの規約で認められた方法で送ります。名簿を作る義務は、どの経路の予約でも施設側にあります。
事前登録の案内をOTAのメッセージ機能から送れるか、リンクを含めてよいかは、利用しているOTAの規約で確かめてから文面を決めます。OTA経由の方が事前登録をしなかった場合も、チェックインで記入してもらえば名簿はそろいます。自社予約とOTAの役割分担は、宿泊施設・ホテルの予約システムの選び方・費用比較|タイプ別の機能・料金・導入手順で比べています。
起こりやすい失敗は?
「事前登録があるからと当日の確認を省く」「予約者1人分で名簿を完成扱いにする」「改正前の様式を使い続ける」の3つです。
失敗例1: 事前登録があるからと、チェックインでの確認を省く。 入力の誤りや、予約者以外が泊まっていることに気づけません。登録内容を本人に見せて確かめる手順を、フロントの案内文に組み込みます。
失敗例2: 予約サイトから届いた予約者1人分で名簿を完成扱いにする。 同行者の記載が抜けたまま保存されます。同行者欄を設け、未入力の分はチェックインで補います。
失敗例3: 改正前の様式をそのまま使い続ける。 旅館業の名簿に「職業」欄が残り、「連絡先」欄がない様式のままになっていることがあります。逆に民泊では職業が記載事項です。施設の営業許可・届出の種類と、自治体の追加事項を確かめてから様式を作り直します。
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よくある質問
Q. 宿泊者名簿は、予約後に事前登録してもらった内容で作ってもよいですか?
A. 事前登録で入力してもらうこと自体は運用の工夫として使えます。施行規則は名簿の正確な記載を確保する措置を求めているので、チェックインで登録内容を本人に確かめてもらい、外国人宿泊者は旅券と照らし合わせる手順を残します。
Q. 宿泊者名簿に職業の記載は必要ですか?
A. 旅館業では、2023年12月13日施行の改正で職業が記載事項から削除され、連絡先が加わりました。住宅宿泊事業法の民泊では職業が記載事項です。自治体が独自に項目を加えている場合もあるため、管轄の保健所の案内も確認してください。
Q. 宿泊者名簿はどのくらいの期間保存しますか?
A. 旅館業・民泊とも、作成日から3年間です。都道府県知事などから求めがあったときに提出できるよう、日付や氏名で探せる形で保存しておきます。
Q. 外国人宿泊者の旅券の写しは必要ですか?
A. 日本国内に住所がない外国人は、国籍と旅券番号の記載が必要です。大阪市などの自治体の案内では、旅券の呈示を求めて写しを保存し、写しを名簿の氏名・国籍・旅券番号の記載に替えられると示されています。
まとめ
- 旅館業の宿泊者名簿は氏名・住所・連絡先が記載事項で、国内に住所のない外国人は国籍・旅券番号も記載する。自治体の追加事項も確認する
- 名簿は作成日から3年間保存する。事前登録を使っても、チェックインで本人や旅券と照らし合わせる手順は残す
- 民泊は記載事項が異なる。名簿のために受け取った連絡先は、同意なく宣伝に使わない
手始めに、いまフロントで使っている名簿の様式を1枚取り出し、「職業」欄が残っていないか、「連絡先」欄があるかを見てください。様式を直すときに予約の項目とそろえておくと、事前登録へ移るときに入力欄をそのまま使えます。予約と宿泊者の情報を一つにまとめて扱う仕組みは、宿泊施設向けの予約・顧客管理システムで紹介しています。
